あたらしい地域課題の 解決方法を探して
一般社団法人霞ヶ浦FC
代表理事
阿見町で次世代の選手育成に取り組むチーム
茨城県稲敷郡阿見町。霞ヶ浦と筑波山の雄大な自然景観を持ち、「阿見グリーンメロン」やレンコンなどの特産品でも有名です。またかつては海軍航空隊の拠点としても全国的に知られ、現在はその跡地に大学や研究施設が立地する文教都市としても展開しています。そんな阿見町で活動する一般社団法人霞ヶ浦FCでは、人工芝のフルコート2面とLED照明を完備した、Jクラブにも負けない充実した環境で、中学生のサッカー・野球の選手育成に取り組んでいます。
代表理事を務める小山氏は、元なでしこリーグの監督という経歴を持ち、現在は自ら運営会社を経営しながら、この法人の運営にも携わっています。どんな想いで子どもたちと向き合っているのか、伺いました。

大きな課題に立ち上がった茨城の実力者たち
このクラブが生まれた背景には2つの大きな課題があった、と小山代表は切り出します。「1つは、霞ヶ浦高校の附属中学校が閉校になることで、最終学年の子どもたちが部活動を続けられなくなってしまうという問題でした。閉校により新入部員が入らないため、卒業間際なのにもかかわらず、野球部については部員が試合ができる最低人数に満たない状況で、サッカー部に至っては2名しか残らなかったんです。そしてもう1つは、教員の働き方改革という全国的な流れです。先生方の負担が大きくなりすぎて、学校だけでは子どもたちのスポーツ環境を支えきれなくなってきている。持続可能な指導ができる状況ではなくなりつつありました。そんな2つの課題を解決するために、この法人を立ち上げることとなったんです」
小山代表自身は、なでしこリーグのクラブで3年間監督を務めた後、起業してスポーツ事業に関わる会社を経営していました。大きな地域課題を確実に解決したい…そこで小山代表は、2名の重要人物に声をかけます。一人は大学時代の同期で、Jリーグの下部組織で指導経験を持つ実力者である前原氏。そしてもう一人、公立高校サッカー部を全国大会に導いてきた実績を持ち、現在霞ヶ浦高校サッカー部の総監督を務めている山下氏です。この3人が代表理事となり、2023年4月に一般社団法人霞ヶ浦FCが正式にスタートしました。
「最初は野球チームを別の法人が引き受ける予定だったんですが、うまくいかなくて。それならばと、サッカーも野球も一緒にこの法人で運営することにしたんです」と当時を振り返ります。そして現在は法人内にて、霞ヶ浦FCというサッカークラブと、阿見ボーイズという硬式野球クラブの2つを運営しています。

チーム運営における仕組み化とは
小山氏の話の中で印象的だったのが、仕組み化という言葉です。チーム運営における仕組み化とはどのような概念なのでしょうか。「指導って結局、人と人との関わり合いなんですよね。教育もコーチングもそうです。でも、その人をどう集団として同じ方向に向かわせるかというところには、ある程度の型がある。仕組み化には2つの要素があって、1つは、どんな時代でも変わらない普遍的なもの。リーダーシップや集団の規律、人をまとめる力といった部分です。もう1つは、その時代のトレンドや科学的に分かってきた最新の知見。サッカーや野球における最新の指導法やトレーニング理論などです。そして両方を揃えて持っていないとお互いに作用しないんですね。普遍的なものをベースにしながら、最新の情報もしっかり取り入れて運用していく。それができれば、才能だけに頼らない、再現性のある育成ができるんじゃないかと考えているんです」運営者それぞれが持つ貴重な経験や実績を、単なる個人の才能で終わらせず、誰にでも再現できる形に落とし込んでいく。それが小山代表の目指す仕組み化なのです。
チームが目指しているのは、ただ強い選手を育てることじゃないんです、と小山代表は力強く語ります。「今の日本には、家庭の中でも学校の中でも教えきれない部分が増えてきていると思うんです。だからこそ僕たちのような場所が、単にプレーのスキルを教えるだけじゃなくて、人間的に成長できる場所でありたいと思っています。社会に出ても、どこに行っても役立つような力を、この預かっている時間の中でしっかり身につけさせてあげたい。野球もサッカーも、進学先がどこの高校でも構わないんです。子どもたちに多様な選択肢を持ってもらいたいので。その中で、パッとその瞬間を全力で楽しめる力、そしてその先で社会から求められる能力を、着実に身につけてもらう。それが僕たちの一番大きな役割かなと思っています」

強制的に評価される場所へ飛び込め
今後の展望について尋ねると、規模拡大よりも質を重視したいと小山代表は話します。「1人の指導者がしっかり面倒を見られる人数には限界があります。概ね1学年最大20人程度が手厚く指導できるギリギリのラインなんです。だからその分質を落とさず、自分たちが目指す子どもの成長に寄り添えるようにしていきたいですね」
その一方で、財源の確保という現実的な課題にも向き合っています。子どもたちからの会費だけに頼るのではなく、スポンサー企業からの支援も積極的に募っているそうです。「地域の人にもただお金を出してもらうんじゃなくて、一緒に中学生世代に投資してもらうようなイメージなんです。将来選手がプロになったときの連隊貢献金の一部を還元したり、応援者として関わってもらったり。みんなで育てて、リターンもみんなで受け取りましょうっていう形を作りたいんです。こうした取り組みをすることで、少子高齢化が進む日本において、地域全体で子どもたちを育てる新しいモデルが作れたらと考えています。例えばオランダがそうなのですが、事実として日本より人口が少ない国でも、サッカーの世界的選手が育成できている。教育の仕組みがしっかりしていれば、人口に関係なく良い選手は育つ。そういうモデルを、僕らも作っていけたらと思っています」
「今は色々調べてから行動する人が多いですけど、やっぱり現場にまず出ることがすごく大事だと思っていて。準備ももちろん大事なんですが、強制的に晒される場所に身を置くというか。その瞬間に良い評価を得られなくても、その評価を受けてどうアクションしていくかが大切。そのため実際に霞ヶ浦FCでも、高校3年生で指導者を目指したいという生徒に、実力はまだ十分でなくても現場を持ってもらい、フィードバックをする機会を意図的に作っています。その場に立たない限りは、そもそもプロへのスタートラインにも立てないんです。だから、やりたいという気持ちをぶつけてくれる方がいるのであれば、資格があろうがなかろうが、まず飛び込んでみてほしいです」
学校だけでは支えきれなくなった部活動の課題を、地域全体で解決していく。そんな新しい形のクラブ運営は、これからの日本のスポーツ界にとって大きなヒントになるはず…。霞ヶ浦FCの挑戦は、まだ始まったばかりです。
一般社団法人霞ヶ浦FC
代表理事
小山 勇気